Budgie Jacketの断片的な思い出


Budgie Jacket - I Don't Care About Time I Don't ...

 

大塚幸代ちゃんの訃報があって以来、90年代初頭のいろんな思い出が頭の中をぐるぐるとまわっているが、なにしろ四半世紀前のことになるので断片的にしか思い出せない。そんななかで、思い出したバンドがBudgie Jacket。幸代ちゃんが当時推薦していた日本のネオアコバンドで、FAKEのフリーペーパー版でインタビューしていた。

 

1992年~1993年にかけて活動した四人組のバンドで、自主製作のカセットを2本出した後、トランペット・トランペット・レコーズ(後のエスカレーター・レコーズ)からアナログ・シングル「I don’t care about time, I don’t want to surmise」、パラソルから「World’s Famous Ep」をリリースし、解散した。全曲英語詞で、音はアコースティック・ギター主体のポップス。当然、幸代ちゃんからは「フリッパーズ・ギターっぽいバンドがいるんですよ」と紹介されたが、彼らはフリッパーズ・ギターと比較されることを嫌がった。ヴォーカルのしょうちゃん(松田省吾氏)は、ネオアコというより60~70年代ポップスが好きで、当時僕はロジャー・ニコルズハーパース・ビザールなどのソフトロックに興味があったので、話題が合った。もう一人バンドの中心人物だったギターの初田圭祐氏はアノラック好きで、当時レコードショップのVinylでソノシートをあさるようなタイプだったし、毒舌なところもあったので、あまり話さなかった。

 

下北沢のライブハウス、シェルターで3回ほどライブを見たが、そのうち1回僕はFAKEのN嬢と幸代ちゃんの推薦でDJとして共演することができた。ポルスプエスト・レコード主催のイベントで、対バンはb-flowerだった。ポルスプエスト・レコードは東芝EMI出資のインディーズ・レーベルで、Budgie Jacketもこのレーベルからデビューを誘われていたと思う。イベントのオーガナイザーは確かBOOWYにもかかわったことがある人で、いかにも業界人っぽい人だった。ブームになりつつあった日本のネオアコにのっかって、一山あてるぜとでもいわんばかりのグイグイしたのりだったので、Budgie Jacketのメンバーも僕も今一つなじめなかった。対バンのb-flowerネオアコというより、牧歌的な日本語ポップスで、「動物園に行こうよ」という歌がやけに印象に残った。しょうちゃん以外のメンバーは気に入らなかったのか、たばこを吸いにライブハウスの外に出ていってしまったが、しょうちゃんと僕は「はちみつぱいっぽいね」とか「ブレッド&バター風じゃない?」とかマニアックな会話をしていた覚えがある。

 

Budgie Jacketのメンバーとはその後、N嬢や幸代ちゃん、アルバイト仲間のT嬢らと一緒に渋谷のライブハウス、クロコダイルであったクルーエル・レコードの年越しライブ(ヴィーナス・ペーターやブリッジなどが出演した、超満員で疲れただけの覚えがある)に一緒に行ったりしたが、何の話をしたか覚えていない(なにしろ僕は音楽バカだったので)。なぜか覚えているのは、しょうちゃんは交通の便の悪いところに住んでいて、ライブが終わると家に帰れない時間になってしまい誰かのところに泊まらざるをえなかったのだが、「時計をして、ジーンズのまま寝るのって嫌じゃない?」と言っていたのだけは今でもはっきりと思い出せる(まったく音楽には関係ないことだが…)。

 

数年後、代々木公園であったオールナイトのフリーイベント(確かワックワックリズムバンドが出演した)で、しょうちゃんにばったり会ったことがある。しょうちゃんはエスカレーター・レコーズの仲真史氏らと一緒だった。久しぶりと挨拶したが、そのあとの会話が続かなかった。気まずくなり、友達を待たせているのでと別れようとしたら、しょうちゃんが「久しぶりに音楽作ったのでよかったら聞いて」とCDシングルを僕に渡した。AMERICAN ROCKという名義で、ジャケットはYMOのラストシングル「以心伝信」をパクッたものだった。そのことをしょうちゃんに言うと、「さすがだね」と笑ってくれた。

 

それから、しょうちゃんがどうしているかは知らない。ケータイもネットもなかったあの頃、僕らはクラブやライブハウス、レコードショップに行けば誰かに会えるだろうとなんとなく思っていた。時代は流れ、僕らが通っていた「場」はもうほとんどない。

 

最近読んだ若杉実氏の「渋谷系」の最後の章でこんな一文がある。

 

「現場なき現場の世界はインターネットにすっかり主導権を握られ、街との接点は希薄になるばかり。現実を動かすすべてが人間によって作り出されているとはいえ、いまここにある現実をまるごと肯定できるほど、あいにく僕の心身はバージョンアップできていない」。

 

幸代ちゃんの訃報があって以来、どうしても感傷的になってしまう。そろそろ前向きにならないと…