サバービアのコンピCDは“Don't Think,Feel . ”

 


Kenny Rankin - Haven't We Met - YouTube

 

「Pardon me, Haven’t we met?(失礼、お会いしたことありませんか?)」なんて、いまどきラブストーリーの映画でも恥ずかしくて使えないベタな口説き文句をさわやかに歌うのが、ケニー・ランキンの「Haven’t we met?」。歌詞を要約すると「お天道様に雨をお願いして、あの角で僕の傘とあの娘の傘がぶつかったら、『失礼、お会いしたことありせんか?』って言うんだ。ロミオがジュリエットに出会ったときみたいに」。日本の漫画でいえば、通学時に曲がり角で男子学生と女子学生がぶつかり(たいてい女子学生が口に朝食の食パンを咥えている)、恋が始まるというパターンといったところか。もちろん、これも今では苦笑交じりのネタ扱いだが。

 

この曲をタイトルにしたカフェ・アプレミディの15周年アニーバーサリーCDコンピレーション「Haven’t we met?~Music from memory」がリリースされた。選曲コンセプトは、「美しい音楽の花を束ねるように。音の温もりに記憶の温もりを重ねるように。思い出の花束を贈るように」。相変わらず読んでて歯が浮くような美辞麗句が連ねられているが、橋本徹氏の選曲センスはさすがで聴いてて心地よい。ネオアコ世代にはスミスの「Please please please let me get what I want」のカバーが嬉しい。

 

90年代初頭にフリーペーパーとして始まり、1993年に小冊子「サバービア・スィート」を発刊した橋本徹氏は、渋谷系のムーブメントをつくった一人。映画音楽やイージーリスニング、ジャズ、ブラジル、ラテンといった発表された当時はほとんど注目されなかった音楽を再評価し、積極的に紹介する姿勢は、過去の音楽を現代風に解釈するフリッパーズ・ギターピチカート・ファイヴオリジナル・ラヴなどのアーティストの音楽とリンクし、HMVやWAVEで「サバービア・スィート」がバカ売れした。僕も夢中になり、渋谷のDJバー・インクスティックで行われたイベント「サバービア・クール・サマー・パーティー」に行き、超満員のなかで窒息しそうになりながら、今まで聴いたことのない音楽に耳を傾けた。今思い出してみるとクラブなのに誰一人踊らず、静かに音楽を聴く光景は奇妙だった。当然紹介されたレコードが欲しくなったが、中古レコード屋では高値がつけられ、当時大学生だった僕には手が出なかった。だが、レコード会社がこのブームに目をつけ再発を徐々に始め、現在のCDコンピレーション「フリーソウル」「カフェ・アプレミディ」シリーズへと発展していった。

 

僕にとっては「サバービア・スィート」は「レコード・ガイド」ではなく、「レコード・カタログ」で、発表年やプロデューサー、参加アーティストなどのデータを知るというより、美しいジャケットを見て楽しむものであり、写真集や画集のようなものだった。橋本徹氏が音楽を紹介するときに使うカタカナ形容詞を「サバービア語」と揶揄り、何をいってるのかわからないという意見もある。確かに文章だけを読んでいるとそうなのだが、音楽は聴いて初めてわかるものである。もともと橋本徹氏がイベント「サバービア・クール・サマー・パーティー」を開催したのは誌面で伝えることに限界を感じたからだという。要は「百聞は一見にしかず」ならぬ「一聴にしかず」。言葉で理解しようするのではなく、聴いて感じるしかないのだ。ということで、今回のコンピレーションCD「Haven’t we met?~Music from memory」もまずは聴くことをお勧めする。断っておくが僕はサバービア関係者ではない。純粋な音楽バカである。

 

Haven’t We Met? 〜 Music From Memory

Haven’t We Met? 〜 Music From Memory