あの人はどうやって歌詞を書いているのか

音楽における「歌詞」、特に自分にとって母国語である日本語の音楽の歌詞とは何か。「歌詞」という名の通り、歌のために書かれた「詞」なのだから、いわゆる「詩」とは違うので、読むものではなくて、聴くものだとは思う。さらに歌詞は歌手の歌い方によって、聴こえ方も変わってくる。

 

「メロディはいいけど、歌詞が好きになれない」と歌詞が煩わしく感じるときもある。妻は、「最近の日本人の歌は恥ずかしくて聴いてられない」と言う。確かによく言われることだが、「会いたくて」とか「ずっと一緒だよ」とか「自分らしく」とか似通った歌詞が多い。古い話になるが、僕は「いとしのエリー」が恥ずかしくて聴けないのだが、レイ・チャールズの英語カバーは好きである。

 

といっても、歌詞カードを熱心に読むときもある。はっぴいえんどの「風街ろまん」は歌詞カードを見ながらじっくり聴きたい(松本隆のあのくせのある手書き文字がいい)。最近だと、サカナクションの「MUSIC」は音は打ち込みなのに、歌詞は文学的で印象に残った。 


自分の精神状態によっても歌詞の好みは変わってくる。妻と喧嘩すると、くるりの「男の子と女の子」を聴いて「女の子ってやっぱよくわからない生き物だよな」なんて思ったり、竹内まりやの「家に帰ろう(マイ・スイート・ホーム)」を聴いて「それでも僕のことをいちばんよくわかってくれてる」と仲直りしようと思い、矢野顕子の「ひとつだけ」の「悲しい気分の時も 私のことすぐに呼び出して欲しいの ねぇお願い」を一緒に聴いて一件落着だなんて考えたりする。ちなみに、妻はプロディジーを爆音で聴いて怒りを発散させるそうだ。

 

聴き手がこんな感じなのだから、書き手はほんとうに大変だろう。「音楽とことば~あの人はどうやって歌詞を書いているのか~」は非常に興味深い本だった。曽我部恵一安藤裕子小西康陽いしわたり淳治小山田圭吾コーネリアス)、坂本慎太郎ゆらゆら帝国)、西井鏡悟(STAN)、木村カエラ向井秀徳ZAZEN BOYS)、志村正彦フジファブリック)、レオ今井、中納良恵エゴラッピン)、原田郁子クラムボン)の歌詞にまつわるロング・インタビュー集である。

 

当然のことながら、歌詞の書き方に正解があるわけではない。「他者多様」であり、人と違うからこそ、それぞれ輝きのある個性を持った歌詞の書き手なのだと思う。その中でも、音楽そのものが好きなこともあるが、小西康陽の言葉は心に残った。

 

「普通に恋愛とかしてればさ、どんなくだらない歌詞でも、『これオレのこと歌ってる?』って気持ちになることがあるじゃない? 歌が自分のサウンドトラックのように聴こえて、いいなって記憶が残る。息の長いソングライターというのは、そういういろんな人の思い入れを引き受けるチャンスが多かった人なんじゃないかな」

 

最近、木下ときわ、畠山美由紀のライブを続けて見たのだが、二人とも昭和の歌謡曲をカバーしていて、やけに歌詞が心にしみた。自分が昭和生まれで、年をとったせいもあるかもしれないが、この時代の職業作詞家の言葉は練りに練られている。「愛」という感情を表現するときに、今のJポップのようにそのまま「君が好きだよ」とストレートに歌詞にするのではなく、「愛」という言葉を俯瞰的にとらえ、違う言葉で表現を重ねることでその曲に「愛」という感情を満たす深さがあると言えばいいのだろうか。そういえば、浅田真央テレサ・テンの「時の流れに身をまかせ」に励まされたというニュースもあった。自分のスケート愛の葛藤をあの歌に託したのだろう(ちょっとできすぎた感はあるが)。

 

と、書きつつ、いしわたり淳治もこの本で挙げていたのだが、僕が一番印象に残っている日本語の歌詞は、岡村靖幸の「僕はステップアップするため倫社と現国学びたい」(ステップアップ↑)だったりする。この歌詞をサビで歌い、異常なほど切実に「学びたい~」と歌い上げる岡村靖幸は本当に「どぉなっちゃんてんだよ」。

 

音楽とことば あの人はどうやって歌詞を書いているのか (SPACE SHOWER BOOks)

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  • 作者: 江森丈晃,青木優,小野田雄,瀧見憲司,恒遠聖文,永堀アツオ,浜田淳,望月哲
  • 出版社/メーカー: スペースシャワーネットワーク
  • 発売日: 2013/06/24
  • メディア: 単行本
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