『絶歌』に対する太田出版の中の人、著作物のある作家のつぶやき、または『絶歌』に反対する唯一の手段は。

太田出版から出版された『絶歌』をめぐって、様々な意見が飛び交ってる。著者である元少年A(すでに中年の男性が自分をこう呼ぶことには違和感があるし、犯罪を犯し少年Aと呼ばれた子は数多くいると思うのだが)はもちろんのこと、版元である太田出版に対する批判も多い。

僕はかつて友人の編集者が働いていたこと、自分が原稿を執筆したこともあり、太田出版の動向が気になっていた。

発刊のニュースを知り、Twitterを検索して目にとまったのが、このつぶやき。

太田出版から発行されているクイック・ジャパンの北尾修一編集長のつぶやきである。最初は「何を他人事のように言ってるのか」と思ったが、『絶歌』発刊がスクープ的に突然発表されたことを考えると、本当に知らなかったように思える。社員数20数名の中小出版社だが、おそらく『絶歌』の編集は岡聡社長と担当編集者だけで秘密裏に進められたのだろう。

担当編集者は同社取締役の落合美砂氏。同社発刊でミリオンセラーになった『完全自殺マニュアル』の編集を担当している。同社の出版物にもたびたび登場している東浩紀氏は以下のつぶやきをしている。

太田出版から著書がある手塚るみ子氏も複雑な気持ちをつぶやいている。

太田出版は近年漫画が人気であり、作家の松田洋子氏はその良さを忘れないでほしいと訴えている。


僕自身、複雑な気持ちである。冒頭に書いた通り、友人が働いていたし、原稿も書いたことがあるし(原稿料の支払いが遅いことに腹を立てたが)、好きな漫画家のオノ・ナツメ氏は同社刊の『リストランテ・パラディーゾ』で知ったし、福田里香氏著『ゴロツキはいつも食卓を襲う フード理論とステレオタイプフード50』は愛読書だ(誤植が多いが)。

『絶歌』出版の6月11日から約1週間がたった6月17日の今日、太田出版が同書の出版を継続する声明を発表した。

http://www.ohtabooks.com/press/2015/06/17104800.html

太田出版に対する批判はしばらく続くだろう。社長と担当編集者は発刊前からそれなりの覚悟はしていただろうが(それでもここまでは考えてなかっただろう)、関わってない他の出版物の編集者たちは当分の間社会の厳しい意見に晒され、やりにくいこともあるだろう。著作物のある作家たちは複雑な気持ちを抱き、今後同社から著作物を出すことをためらうかもしれない。クイック・ジャパンや漫画の読者も何となく後ろめたい気持ちになり、買わなくなるかもしれない。企業は利益を追及するものではあるが、いくら物議を醸し出す本を定期的に刊行し、生き残ってきたとは言え、ここまでのリスクを犯してまで出版する覚悟が太田出版にあったのか、疑問に思う。ひょっとしたら、時の流れの早いこの情報化社会では1年後には忘れ去られ、ブックオフに山積みになることを見越した強かさなのかもしれない。

これだけ書いおいて逃げと思われるだろうが、僕は『絶歌』を読む気はない。教育関係者、児童心理学者、少年犯罪研究者など専門家が読む本だと思う。社会心理学者/カウンセラーの碓井真史氏が「願わくば、単なる興味本意ではなく、単なる参考書でもなく、彼を攻撃するためだけでもなく、同情するためだけでもなく、意味ある読み方ができる人々に、本書を必要とする人々に、この本が届きますように」と指摘しているように。

http://bylines.news.yahoo.co.jp/usuimafumi/20150617-00046725/

僕は、『絶歌』に1620円を払うのなら、その代わりに自分の好きな本を買いたい。もう少しお金を足してCDを買うのもいい。近所のカフェの大好きなベーコンチーズバーガーを食べられるし、ポテトも大盛りにできる。映画を観たり、美術館や博物館に行くのもいい。何よりこんなことに気をとらわれてないで、妻と他愛のないことでも話して笑っていたい。自分の心を自分の好きなもので豊かにする。それが僕が考える、『絶歌』に反対する唯一の手段は。


※アマゾンのリンクは『絶歌』とも太田出版とも何ら関係ない。


戦争に反対する唯一の手段は。 - ピチカート・ファイヴのうたとことば - -music and words of pizzicato five-

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