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うれしい悲鳴をあげたことってありますか?

チマチマと読んでいた、いしわたり淳治の『うれしい悲鳴をあげてくれ』を読み終える。買ったのは確か去年の秋ですぐ読み始めたはずだ。これだけ時間がかかったのは内容が難解だからとか、つまらないけど買ったのだから意地で最後まで読んだというわけではない。それどころか、読んでて「ワハハ!」と笑うのを耐えきれなくなったり、「マジかよ…」と背筋が凍りつくような恐怖を味わったり、思わず「そうきたか!」と言いたくなるオチが待っている。そして、物事の真理を突かれて「う~ん」と唸ってしまいたくなるような気分を味わえる。

例えば、本のタイトルにもなっている「うれしい悲鳴をあげてくれ」。二人のボーイフレンドに同時にプロポーズされた女は「ああ、どうしよう!」とまさにうれしい悲鳴をあげつつ、どちらの男にも決められず悩む。女は気を間際らそうと、空腹を満たしにコンビニに行くが食品がほとんど売っていない。女はイライラするがファッション雑誌の最新号を見つけると嬉々とし、雑誌を買って家に帰る。そして雑誌を読み終えると、一人の男に「結婚しましょう」と電話をかける。そして続け様にもう一人の男にも「結婚しない?」と電話をかけ、さらにはあろうことか、別の男友達にも次々と電話をかけまくり、20人もの男と結婚の約束を交わす。女は至って正気である。さて、あなたならこの話にどんなオチをつけますか?

いしわたり敦治はロックバンドのスーパーカーのギタリストで、バンド解散後は今時珍しい職業作詞家として活動している。この本はロッキング・オン・ジャパンに連載されていたものを単行本にした彼の処女作である。過去日記で紹介した『音楽とことば~あの人は歌詞をどうやって書いているのか~』のインタビューによると、「エッセイと短編小説が半々で、全部で52本の話があって、それぞれを3分から5分で読めるようにしてある」らしく、「あの本はなんなのかっていうと、CDにおける、ボックス・セット。各章ごとにシングル・チューンを散りばめた」のだそうだ。ちなみに文庫化にあたって収録された未発表作品は「ボーナス・トラック」と名付けられている。つまり、どこから読んでも面白いし、気分転換にチマチマと読むのに向いているのだ。

ところで、読み終えた後、ふと、「うれしい悲鳴をあげたことってあったっけ?」と考えた。妻に「うれしい悲鳴をあげたことってある?」って訊くと、「今日の夕飯はアボカドとトマトのハニーマスタードです、って、LINEにあなたからメッセージ入った時。あれ大好物だからテンションあがるんだー!」と答えが返ってきた。そういえば、結婚するまで僕はアボカドを食べたことがなかった。今では僕も好物だ。

お互いが知らなかったものが混じり合い、新しいものが生まれるのが、結婚生活だと言ってたのは誰だったけかなと思いながらも、いやこれじゃきれいにまとめすぎだ、いしわたり淳治ならどんなオチをつけるかなと考え、僕はスーパーカーの「STROBOLIGHTS」を聴きながら、夕飯の準備を始めた。

♪2愛+4愛+2愛+4愛-SUNSET+4愛+2愛+4愛+2愛……=TRUE HEART(真実)!


うれしい悲鳴をあげてくれ (ちくま文庫)

うれしい悲鳴をあげてくれ (ちくま文庫)