ところで君たち、『おもしろいマンガ』というものはどうすれば書けるか知ってるかね? 『リアリティ』だよ! 『リアリティ』こそが作品に生命を吹き込むエネルギーであり、『リアリティ』こそがエンターテイメントなのさ。 『マンガ』とは想像や空想で書かれていると思われがちだが、実は違う! 自分の見た事や体験した事、感動した事を描いてこそおもしろくなるんだ!
そう言った後、岸辺露伴はクモを捕まえ、Gペンを刺し、クモを描くためにはどんな形をしているかだけでなく、どういうふうに内臓がつまっているか、腹をさかれて死ぬ前にどんなふうに苦しみもがくのかを知っていなければならないと力説する。さらには、「味もみておこう」と舐める。良いこと言ったかと思うと、台無しかと思えるような残酷かつ変態的な描写をするのが、荒木先生の真骨頂である。
前置きが長くなったが、松浦弥太郎氏がクックパッドの新メディア「くらしのきほん」を開設し、その思いを語ったインタビューを読み、この岸辺露伴のセリフでツッコミしたくなった。
●くらしのきほん
●松浦弥太郎[前編]クックパッドの高い技術を持った人たちに肩を並べられるコンテンツをぶつけてみたいと思った
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150629-00043939-gendaibiz-bus_all
●松浦弥太郎[後編]100年後も古びない「くらしのきほん」をアーカイブとして残していきたい
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150630-00043942-gendaibiz-bus_all
このインタビューによると「くらしのきほん」は暮らしを衣食住というジャンルで分けるのではなく、「あこがれる」「学ぶ」といった感情や行動で分けているのが特徴だという。例えば「ありがとう」というコーナーでは、「手紙を書くように」というタイトルでジャムの作り方を紹介しており、ジャムは瓶に詰めラベルを書いて人にあげることで、ありがとうの気持ちを伝えることができると説明している。暮らしをテーマにしているが、コンテンツの半分以上は料理に関するもので、その理由を「暮らしの中心には料理があって、暮らしを楽しくしようと思うと料理抜きには考えられない」としている。
ここまでは読んでてもっともらしいことを言っていると思ったのだが、驚いたのがこの言葉。
「僕も最近、毎日料理をしているんですよ。『暮らしの手帖』時代は横で見ているだけであまり実践していなかったんですが、今は毎日なにかしら料理をつくって、コンテンツを作っています」
つまり、クックパッドに来てから料理を始めたのである。こんなことを堂々と言う方に、「暮らしの基本としての料理」を教わりたいという気持ちになるだろうか。実際にダシ巻き玉子のページを読んだが、ソフトフォーカスの写真とですます調の文体できれいにまとめただけ。リアリティを全く感じられないのだ。
クックパッド・ユーザーの自分としては、ダシ巻き玉子の作り方を知りたいなら、つくれぽが多いレシピを探す。そもそもクックパッドはユーザー投稿のレシピ集であり、プロではなく、自分と同じ素人によるものだから、ここまで支持されているのだと思う。もちろん、今回の「くらしのきほん」は読み物で、クックパッドと差別化しているのはわかる。しかし、「100年後も古びない暮らしの基本を伝えたい」のに、クックパッド・ユーザーと変わらない、いやユーザーにはプロ級の方もいるので、それ以下の方が編集長というのは心許ない。せめて監修者を編集に入れるべきだ。
というわけで、僕は今日の夕飯をクックパッドを見ながら作ることにする。蒸し暑かったので、さっぱりと、豚こまと大葉と梅の肉団子、ナスとツナの生姜醤油和えにするつもりだ。もちろん、ご飯も炊くぞ。
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