この質問は、飲み屋での男の与太話でよく出てくると思う。音楽好きだと、1枚だけレコードを持っていけるとしたら何にするか、と続く。大抵そもそもその島で生きて行くための食料はあるのかとか、無人島に電気が通っててプレイヤーがあるわけないだろとか、突っ込みが入るが、与太話なのだから、そういう細かいことはどうでもいい、要は一生の一枚を知りたいということだ。
しかも、ただ単にお気に入りの一枚を知りたいというわけではない。他人が選んだ一枚を聞いて「なかなかセンスあるじゃん」とか「それはないだろ」とか思ったり、さらには大袈裟だがその一枚からその人の人生観が見えてきたりすることもある。ちなみに故・ナンシー関さんのエッセイで読んだのだが、キャイ~ンのウドちゃんに無人島に何を持っていくかと質問すると、「天野くん」と迷わず即答したそうだ。
もしも、浅井慎平、泉麻人、太田和彦、奥田英朗、片岡義男、亀和田武、熊谷達也、椎名誠、ジョン・カビラ、しりあがり寿、高橋幸宏、立川志らく、玉村豊男、萩原健太、古田新太、細野晴臣、誉田哲也、松山猛が、無人島でひとりぼっちになるとしたら、持っていくレコード1枚、映画1本、本一冊はーー『無人島セレクション』は、ナイスミドルのオヤジたちの与太話を集めた一冊である。
それなりに人生を重ねてきたオヤジ達だけに、そのほとんどが1つに絞るなんて無理だとぼやくわりには、選んだ一枚、一本、一冊に対して思い出を交えながら蘊蓄と愛情たっぷりに書いているのがおかしい。しかし、すでに人生の折り返し点を曲がった僕も、同じ質問をされたら同じように悩む。もっとも飲み屋の与太話の場合、ああでもない、こうでもない、と言うのも話題の盛り上がりに欠かせないのだが。
この無人島話の重要なポイントになるのが、「ひとりぼっちになる」ということだ。無人島だから当たり前なのだが、つまり一人になったら何を選ぶかということである。「ひとりで聴く」ことを前提につくられたアルバムで、最近愛聴しているものがある。PIZZICATO ONEの『わたくしの二十世紀』だ。
小西康陽によるPIZZICATO FIVEの楽曲を中心にしたセルフ・カバー集なのだが、まずジャケットからしていい。夏のリリースなのにひっそりとした東京の街の雪景色。さらにCDのラベルは小西康陽氏から個人的にもらったCD-Rかのように、手書きの文字が書かれている。収録曲はどれも控え目のアコースティックな演奏で、そこに生々しい歌声がのっかる。まさに一人で聴くのにふさわしいアルバムだ。
無人島に一人でいたら、きっと寂しいだろう。その点、このアルバムの収録曲のほとんどは、僕が1990年代に愛聴した思い出の曲ばかりで、聴いてる間は当時の音楽仲間を思い出して、寂しさも紛れるかもしれない。また、原曲は明るいハッピーな感じのものが多いが、このアルバムでは静かなアレンジなので、一人で空騒ぎすることもしないですむ。うん、これで決まりだと、いつものように妻に話すと、めずらしく拗ねながらこう答えた。
「そんな音楽選びに悩むんじゃなくて、ウドちゃんみたいに嫁と即答するべきじゃない?」
無人島セレクション Desert Island Selection
- 作者: 無人島セレクション編集部
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2014/09/09
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