愛こそがいつの時代も歌のスタンダード~世界は野宮真貴を、渋谷系を、愛を求めている。

世界は愛を求めている。What The World Needs Now Is Love~野宮真貴渋谷系を歌う。は、かつて渋谷系を愛聴した者としては、買う義務があると発売前から楽しみにしていた。

購入してから最初から最後まで一曲も飛ばすことなく、繰り返し聴いている。この記事を書いてる今も、度々キーボードを打つ手が止まり、一緒に歌ってしまう。ピチカート・ファイヴバート・バカラックロジャー・ニコルズ、トワ・エ・モア、松任谷由美山下達郎、スクーターズ、EPOフリッパーズ・ギター観月ありさ小沢健二。選曲の素晴らしさに脱帽してしまう。

この選曲ラインアップを見て、「バート・バカラックロジャー・ニコルズは洋楽でしょ」とか、「ユーミンや達郎、松田聖子EPOまで渋谷系?」と思う人もいるかもしれない。

バート・バカラックロジャー・ニコルズは一部のポップスマニアの間では知られていたかもしれないが、彼らのアルバムがCDで再発され、手に入りやすくなったのは、渋谷系といわれたアーティスト達が元ネタにしたり、レコメンドしたからであり、渋谷系のルーツと言える。松任谷由美の初期の荒井由美時代は、細野晴臣が在籍したキャラメル・ママ/ティンパンアレーが制作に関わっており、ピチカート・ファイヴ細野晴臣が作ったレーベル、ノンスタンダードからデビューしている。山下達郎は自ら「かつては元祖夏男、いまは元祖渋谷系」と語っている。これは達郎がパーソナリティを務める長寿ラジオ番組「サンデー・ソングブック」で渋谷系アーティスト達がルーツにしたような良質なポップスを紹介していたからであり、その達郎に大きな影響を与えた大瀧詠一のラジオ番組でピチカート・ファイヴ小西康陽ロジャー・ニコルズを知ったという。松田聖子の「ガラスの林檎」は作詞は松本隆、作曲は細野晴臣はっぴいえんどコンビだ。さらにEPOはレコーディングでアメリカを訪れた時にロジャー・ニコルズに会ったことがあるという。

(「渋谷系御三家オリジナル・ラブが選ばれてない」という意見はあるだろうが、昨年リリースされたライブアルバム『実況録音盤 野宮真貴渋谷系を歌う』で「月の裏で会いましょう」を取り上げているし、「接吻」をカバーするアーティストが多いので、あえて外したのではと思う。ちなみに田島貴男はライブで「オレは渋谷系じゃねえ!」と発言したことがある。その言葉の後には「…だって大阪育ちだから」というオチがあるが)

何よりも僕が蘊蓄を述べる前に、アルバムの解説でその意図が記されている。

野宮真貴と坂口修が“渋谷系スタンダード化計画”でピックアップした音楽はごくごく真っ当な渋谷系である。60年代も90年代もいい音楽という基準は変わらないのだから。(中略)渋谷系は決して流行りモノではなかった。素晴らしい音楽を探し、伝えるための出来事だったのだと。

このアルバムのもう一つの大きなテーマはアルバム・タイトル通り、“愛”だと思う。あらためて言葉にすると恥ずかしいが、選ばれた曲の歌詞は“愛する”という多幸感に満ち溢れている。バート・バカラックの「What The World Needs Now Is Love」の小西康陽が書き下ろした日本語訳詞では、

愛しあう心が 必要かもね 愛し合う気持ちが 何よりも大事なの もう何も要らないでしょ 山も川も草原も 何もかも欲しいものは この世に溢れている

と、高らかに愛しあう心の大切さが歌われている。この「世界は愛を求めている」ということこそ、いつの時代にも不変的なことであり、スタンダードとして歌い継ぐべきテーマにふさわしいものではないだろうか。

いろいろ書いたが、何より願うのは、このアルバムを僕のように90年代を過ごしたオヤジが懐メロとして聴くだけではなく、今の10代、20代の若い子達が「渋谷系って知らないけど、いい曲だね」と聴き継がれ、歌い継がれ、スタンダードとなること。あれからもう四半世紀近くたつのだから、そろそろそうなってもいいと思うのだ。

世界は愛を求めてる。 What The World Needs Now Is Love~野宮真貴、渋谷系を歌う。~(初回限定盤)

世界は愛を求めてる。 What The World Needs Now Is Love~野宮真貴、渋谷系を歌う。~(初回限定盤)