二年足らずの転校生~2016年はフリッパーズ・ギター25周忌


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これから夏休みという一学期の終わり、僕が通う学校に、急に男子の二人組が転校してきた。
 
二人は、これまで僕らが見たことのないお洒落な格好をしていて、僕らが知らない音楽や映画をたくさん知っていた。二人は瞬く間にクラスの人気者になり、大人である先生も一目置く存在になった。みんなが仲良くなりたがったが、彼らは自分達のお気に入りとしか付き合わなかった。
 
僕も二人が話す音楽や映画のことが気になり、できれば仲良くなりたいなと思っていたが、時々彼らが嫌いな奴を口汚く罵るのは苦手だったし、ご機嫌とりの取り巻き連中はもっと嫌いだった。
 
ところが、次の次の年の秋が始まる頃、二人は突然、それぞれ別の学校に転校していった。お互いの趣味が変わって喧嘩別れしただとか、同じ女の子を好きになって取り合っただとか、取り巻き連中が噂話をすることはあったが、クラスのほとんどは二人のことを忘れた。
 
僕は結局、二人と話さずじまいだったが、彼らが好きだった音楽や映画のことは今でもよく覚えている。
 
 
なんてね。陳腐な例え話だが、これが僕のフリッパーズ・ギターの印象である。
 
大学一年生の時にバイトしていたレンタル・レコード屋に『海へ行くつもりじゃなかった』のCDが一枚入荷し、「これ良いよ」と2つ上の先輩がかけた。「ビートルズみたいだ」と先輩に言った。まだ流行りの洋楽や邦楽しか知らない自分にとっては最大級の誉め言葉のつもりだったが、先輩に「いや、ネオアコだよ。オレンジ・ジュースとかモノクローム・セットとか」と、知らない音楽ジャンルとバンド名を言われた。さらに「あれ?邦楽コーナーに置くんですか?英語ですけど」と僕が言うと、「いや、日本人だよ。俺らとあんまり歳変わらないみたいだよ」と言われ、さらに驚いた。
 
(余談だが、若杉実氏著『渋谷系』によると、ポリスターのディレクターの岡一郎氏は、フリッパーズ・ギターの前身バンド、ロリポップ・ソニックのデモ・テープを聴いて、ビートルズ的だと感じたという)
 
ちょうど、ストーン・ローゼズのデビュー・アルバムが話題になり、イギリスのインディーズ・シーンが盛り上がっていた。こちらにもタイミングよくハマったため、ライブハウスやレコード屋でしょっちゅうフリッパーズ・ギターの二人を見かけるようになった。
 
偶然にも大学の音楽サークルの先輩がロリポップ・ソニックの頃からのファンで、仲もよく、「学園祭に誘うよ」と言ったことがある。サークルで模擬店クラブをやっていたので、DJを聴いて貰えるかもと緊張した。結局二人は来なかったが、カジヒデキさんが来て、モノクローム・セットの「Jacob’s Ladder」で踊ってもらえたのは、いい思い出である。
 
フリッパーズ・ギターのファンジン『FAKE 』を作っていた中沢明子さんと大塚幸代ちゃんと知り合い、FAKE主催のクラブ・イベント『FAKE HEAD’s NIGHT』でDJをする機会もあった。ヘブンリーのライブを見に行った時に、小山田圭吾さんがいたので、「DJやります」とフライヤーを渡したが、来て貰えるどころか、開催直前にフリッパーズ・ギターが解散してしまった。
 
(FAKE HEAD's NIGHTのこと↓)
 
ライブは『海へ行くつもりじゃなかった』のリリース後と、『ヘッド博士の世界塔』のリリース後の2回見たが、前者はウチ輪乗り、後者はオリーブ少女満杯で酸欠と、あまりいい印象は正直ない。
 
今でも3枚のアルバムは時折思い出しては聴く。特に『カメラ・トーク』は、個人的に思い入れがある。このアルバムのおかげで黄金の七人クロディーヌ・ロンジェを知り、映画音楽やソフトロックを聴くようになったのだから。
 
クイック・ジャパン38号の解散10周忌企画「ノー・モア・フリッパーズ・ギター」でも書いたが、フリッパーズ・ギターが残した最大の功績は、音楽を作る人(ミュージシャン)、売る人(CDショップ)、聴く人(リスナー)がつながったマーケットを誕生させたことだと思う。事実、彼らが元ネタにしているからということで、再発されたCDは数多くあり、それによって今まで聴いたことがなかった素晴らしい音楽に出会えた人は当時、多かったはずだ。
 
フリッパーズ・ギター解散から四半世紀が経ち、彼らが元ネタにした映画音楽、ソフトロック、サイケはもちろんのこと、ネオアコもマンチェも前世紀の遺物である。しかしそんな時代の隔たりなど、CDからさらにストリーミング再生に移行し、過去の音楽にも自由にアクセスでき、総てのジャンルの音楽が(一応は)平等に陳列される今では、関係のないこと。良い音楽はいつ聴いたって良いのだから。
 
昔語りを老害とする向きもあるが、25周忌を迎えたフリッパーズ・ギターが、未知の音楽の世界の扉を開くきっかけになれば、と思う。青春は一度だけ、かもしれないが、音楽に閉じ込められた輝きは不朽なのだから。