小沢健二のライブがGターr ベaaス Dラms キーeyズであった所以


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6月12日、Zepp  Diver City で小沢健二のライブを見 ることができた。小沢健二がソロ・デビューして四半世紀近く経つが、1993年、日比谷野外音楽堂でのデビューフリーライブは並んだが会場に入れず、小雨が降るなか、漏れる音を外で聴いて以来、なんとなく見ることが出来ない人と思い、その後もライブに行かなかった。しかし、今回のライブ前は半ば義務感で行くと言ってた友人が、鑑賞後、絶賛していたので、見れるうちに見ておきたいと思うようになった。幸い前々日にTwitterの相互フォローの方にチケットを譲って頂くことになり、初のライブとなった。

デビュー後、小沢健二は2ndアルバム『LIFE』がヒット、テレビの歌番組に出演し、芸人に物真似されるお茶の間の人気者になったが、その後、3rdアルバム『球体が奏でる音楽』ではダン・ヒックスのようなスウィング・ジャズ、4thアルバム『Eclectic』ではディアンジェロのようなネオソウルに挑戦し 、さらに5thアルバム『毎日の環境学』では最大の特徴であった歌詞を棄て、フュージョン・タッチのインストゥルメンタルに挑んだ。アルバムを出せば出すほど、評論家やリスナーは小沢健二の音楽をどう評価すればいいのかわからず、歌詞にばかり注目するので、嫌がらせのように歌詞を放棄したのではないか、と勘ぐった覚えがある。

相変わらず前置きが長くなったが、今回のライブで小沢健二が新曲を披露することが事前にわかったので、今度はどんな音楽に挑戦するのかが、僕の最大の関心だった。

バンドの編成は、小沢健二のヴォーカル&ギターのほか、ギター、ベース、ドラム、(パーカッション、アナログ楽器(テルミンなど)。バックバンドというより、小沢健二バンドと言ってもいいほど、演奏に一体感があった。(Sensuous TourのCornelius Groupを思い出した)

演奏される音はファンク、しかもラブリーの元ネタのベティ・ライトのような今でもクラブで通用する70sではなく、日曜の昼間にMXで放映されているDisco Trainで選曲されそうな80sのディスコのり。それも黒人のねちっこさを白人が洗練したもの、ナイル・ロジャースがプロデュースしたホール&オーツデヴィッド・ボウイデュラン・デュランのような音に近く、ギターのカッティングが躍動感あるリズムを生み出す。新曲だけでなく、既存曲の「大人になれば」も16ビートのジャズから、横ノリのディスコ・ファンクに大胆にアレンジされていた。

あくまで推測なのだが、小沢健二が自身の復活のライブ・ツアーで新曲を披露するにあたって、3rd~5thアルバムの時のようにひねり出そうとしたのではなく、自然に生まれた曲ではないだろうか。小沢健二は1968年生まれ、中学生になって洋楽に興味を持ち始めた頃に、上記のナイル・ロジャース・プロデュース作品が人気だったはずだ。この辺りの洋楽を小沢健二が当時好きだったのかどうかは定かではないが、あれだけ流行っていたのだから身体が覚えているリズムなのではないだろうか。

もちろん新曲だけではなく、「ラブリー」「ドアをノックするのは誰だ?」「強い気持ち・強い愛」「さよならなんて云えないよ」などのヒット曲も演奏し、これらの曲はほぼ発表時のままのアレンジだった。新曲より、既存曲の方が観客の反応が大きかったことは当然であり、本人も最初からわかっていただろう。それでも、新曲を演奏する前に必ずプロジェクターにタイトルと歌詞を写し出し、これから新曲を演奏するよとわざわざ知らせる演出から、新曲の演奏の方が力が入っていたと感じた。

新曲7曲+既存曲10曲を小沢健二はほぼノンMCで演奏し続けた。時々おどけた振り付けをすることはあったが、かつての王子キャラは全く感じられなかった。キャラ重視のパフォーマンスグループや最新のテクノロジーを取り入れたユニット的グループが席巻する中、バンドが生み出すグルーヴを重視した演奏スタイルはどちらかと言えば時代遅れかもしれない。しかも日本人が好きな縦ノリではなく、横ノリである。それでも過去の栄光を背負いながらも自分が好きなバンド・サウンドを鳴らしたいんだ、という前向きの姿勢は、小沢健二に対する誉め言葉には似合わないかもしれないが、真面目なひた向きさを感じ、音楽を聴き続ける同世代としてかなり心を打たれた。

ここまで読んで頂いた方は、新曲の歌詞について全くふれてないことに気づいたと思う。新曲の歌詞について書かないのはライブ評としては片手落ちかもしれないが、小沢健二に対する評は歌詞に偏重する傾向があり、音楽についてはあまり語られていなかったので、こういう書き方をした。何より今回のライブは僕にとってそれだけ音楽的に印象深く、だから、今回のライブのタイトルが、「魔法的  Gターr ベasス Dラms キーeyズ」だったのではないか、ということでご容赦頂きたい。

ライブの曲目はこちらをご参照ください。