2019年ベストアルバム

「『アルバム』って…覚えている?」

「アルバムは、今も、重要だ」

「本や映画や大切な人との他愛もない長話と同じように。アルバムは、今も重要だ。今年も、これからも…。2019年ベストアルバムです」

(プリンス 2015年グラミー賞アルバム賞スピーチ adapted by トオルa.k.a.スケル)


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When I Get Home/Solange
Nice To Meet You/Pi Ja ma
Lucid /Raveena
Fear Gorta/Fear Gorta
Hochono House/細野晴臣
35 mm/Juan Fermin Ferrarris
Quartetto Sentinela/Quartetto Sentinela
Turning Point/Celso Fonceca
Q曲/東郷清丸


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Ma/Devendra Banhart
Designer/Alduos Harding
新しい人/Orge You Asshole
There's Always Glimmer/Gia Margaret
Immunity/Clario
A Lifetime Away/Ruslan Sirota
Thinking Out Loud/Moons
Ela E Carioca/Sanny Alves e Marlon Mouzer
OOPTH/のろしレコード

 

 

Spotifyの「2019年のお気に入り」でランキングされたのはトップアーティストとトップソングで、トップアルバムはなかった。「今はプレイリストで音楽を聴く時代」とか「シングル中心で聴き応えがない。音楽はやっぱりアルバムで聴くものだ」とか音楽ライターみたいにドヤる気は今さらない。何より今がそういう時代であることはアーティスト自身がいちばんわかっているはずだ。

 

そうした時代においてもプレイリストに選ばれることを拒むような美意識の強さと押しつけがましくない自意識を感じるアルバムを好んで聴いた。今年1月にほぼ同時期にリリースされたソランジュと細野晴臣が今年の好みの傾向を決定づけたと思う。ソランジュの1曲を選びようがないシームレスな曲のつなぎはまるで敏腕のDJのプレイを聴いているようでサブスク時代におけるアルバムのあり方を提示したと思う。一方、細野晴臣が過去の自分のアルバムの生演奏だった楽曲を打ち込みにし曲順を逆転させ、サブスクでもあっさりリリースしたのは、最近の和モノ・アナログ再評価ブームを自らいじるかのような痛快さを感じた。

 

スローな歌声とメロディがひたすらに心地良いRaveena、打ち込みなのに儚さを感じるClario、繊細で翳りがありながらもどこか奇妙なくせがあるAlduos HardingやGia Margaret、声ではなくピアノで流麗な歌を表現したJuan Fermin FerrarrisやRuslan Sirota、静謐な響きの音楽でブラジル音楽の豊かさを聴かせたCelso FoncecaやMoons、ボサノバとミナスの伝統を現代に甦らせたSanny Alves e Marlon MouzerやQuartetto Sentinela。彼らにはSolangeと同じ美意識を感じた。

 

複雑なメロディとリズムでありながら歌心はあるFear Gorta、フレンチ・ポップの枠に収まらない楽しさがあるPi Ja ma、懐古趣味ではない現代のフォークのあり方を提示したDevendra Banhart、独特の言葉遣いでありながら歌詞に引きずられない日本語ポップスを聴かせた東郷清丸、Orge You Asshole、のろしレコード。彼らには細野晴臣のような痛快さを感じた。

 

冒頭で引用・再編集したプリンスはかつてCDのトラックが1曲しか表示されない全曲つながったアルバム「Lovesexy」を発表した。自分はこの曲順でアルバムを作ったのだから容易に飛ばさないで最初から最後まで聴いてほしいというプリンスらしい意思の強さとユーモアであり、今回選んだアルバムにもプリンスと同じ美意識と自意識を僕は感じた。もちろん誰一人あの「安心してください。履いていません」ポーズのジャケットではないが。