長い坂の絵のフレーム

ここ数週間あるバンドのアルバム30周年のファンジンをつくるために昔の友人やツイッターで知り合った人に連絡をしているが、メッセージのやり取りをするたびにそのバンドのアルバムの曲だけではなく、井上陽水の「長い坂の絵のフレーム」が頭をよぎる。


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https://youtu.be/kQlqplGLoKY

 

この曲を知ったのは何十年も前に偶然見たNHK井上陽水の特集番組だった。私は井上陽水の熱心なファンではないがこの曲の歌詞が印象に残り、年を取るたびに味わい深いものになった。それは間違いなくこの番組が収録されたときの井上陽水の年齢に私がなったからだ。

 

この曲を味わい深いと思うのは「長い坂の絵」ではなく「長い坂の絵のフレーム」であるからだと思う。人の一生を「長い坂の絵」に例えるのは容易い。しかし人生というものは複雑で時に理不尽なものであり思い出したくないことも多い。「長い坂の絵」を自分の人生に見立てるうちにそんな気分になり、視線を外し「フレーム」を見てしまう、そんな心境を歌っているのだろうか。

 

今作っているファンジンでは、そうしたこぼれ落ちがちなものも含めたものにできればと思っている。なぜなら次の周年のタイミングには、そのアルバムをリアルタイムで聴いた私や友人・知人の多くは還暦を迎えるからだ。もちろん還暦を迎えても活発な人たちもいるし、「人生100年時代」というとんでもないコピーがCMに流れる時代だが記憶力はさすがに衰えるはずであろうから。SNSの発達により歴史の改竄・捏造といった言葉が容易く使われるようになった時代だからこそ、今のうちに時代の証言をまとめておきたい。幸か不幸かコロナ禍で考える時間だけはたっぷりあるのだから。