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あなたは音楽をどう愛す?~新・配信ビジネスの衝撃~

7月7日放送のNHKクローズアップ現代「あなたは音楽をどう愛す?~新・配信ビジネスの衝撃~」は、いち音楽好きとしてはとても考えさせらる内容だった。

番組で紹介された新・配信ビジネスとはスマートフォン用音楽の定額配信アプリのことで、Apple Music、LINE MUSIC、AWA Music (エイベックス・デジタルとサイバーエージェントの提携)が代表格だ。IT通の方が既にネットで盛んに話題にしてるし、どのサービスも今お試し期間で実際にダウンロードした人も多いと思うので、どんなサービスなのかはここでは詳しくは述べない。というか、僕はスマートフォンでは音楽を聴かず、今だにiPodを使っている時代遅れの男なのだ。

まず、僕が気になったのは、アーティストが提供する音楽の対価の低下だ。番組ではアーティストに支払われる著作料が、CDアルバム1枚3000円で110円(1曲8.48円)、ダウンロード1曲200円で16.6円だが、ストリーミングで1回再生だと0.16円になるという試算が紹介された(海外で普及しているSpotifyの公表データを元に京都精華大学講師 榎本幹朗さんが試算)。単純計算だとある曲を100回再生すればダウンロードと同じ価格になるが、テイラー・スウィフトは「これでは若いアーティストが音楽を生み出せなくなる」と危惧していると言い、ビョーク、マドンナ、レディオヘッドも同様の意見だという。彼らのようなビッグ・アーティストなら100回再生は容易だろうが、デビューしたばかりの新人アーティストではなかなか難しいということだ。

佐野元春も、テイラー・スウィフトの発言はわかると言い、「音楽がどういう状況に置かれているか、リスナーも考えるきっかけになる」と指摘する。この言葉を受けて番組が紹介したのが、最近の日本のヒットチャートの傾向。2014年はトップ10をAKB48、嵐、乃木坂46EXILE TRIBEが占めている。一方、CDの売り上げがピークに達した1998年は、GLAYSMAP、SPEED、BLACK BISCUITS、KiroroL’arc~en~CielKinki kidsEvery Little Thingと、様々なアーティストがチャートインしている。僕のような他人からマニアックだと言われる者からすれば、片寄っていると思うが(僕の1998年の心のベスト10第一位はシングルではないがピチカート・ファイヴの「テーブルにひとびんのワイン」)、それでも今に比べればましだ。最近テレビの民放各局で音楽スペシャル番組が放映されたが、どの局も似たような面子だと感じた。

長年新人発掘に取り組んできたユニバーサルミュージック シニア・プロデューサーの加茂啓太郎氏は、ある時期からアーティストの音楽よりも見た目のインパクトが重視されるようになったという。「動画を見てればよいっていうざっくりした感じ。一概に言えないが、例えばピアノ弾き語りの男性が見た目が地味だと、曲が良くてもどうすればいいのかなみたいな」。ベストヒットUSAやポッパーズMTVを熱心に見ていたMTV世代としては動画の役割の重要性はわからないでもないが、それでも今のダンスやキャラクターを重視したパフォーマンスグループの売り方には違和感を感じる。

ポッパーズMTVの司会もしていたピーター・バラカン氏は「音楽に多様性がなくなったのではなく、メディアから伝わってくるものに多様性がない。昔はラジオもテレビもいろんな音楽が流れていた」と指摘する。その一方で、CDの値段が高く、主な聴き手である若者が違法ダウンロードなどネットで無料で聴ける手段に飛び付いたと分析している。バラカン氏は「僕が若い頃は安いシングルがあった」と言っているが、自分の経験だとモノクロ・ジャケットでA面しか収録されていないシングル・レコードで500円で売り出されていたものがあった覚えがある(ヴァネッサ・パラディのデビュー・シングル「夢見るジョー」)。またラジオはもちろん、図書館に行けばCDを借りることもできるので、昔から無料で音楽を聴く手段はあったとも言う。若い頃は少ないお小遣いではレコードやCDを買えず、ラジオの放送や、友人・レンタル店などから借りたレコード・CDをカセットテープに録音して聴いたことは、ネット以前に誰もがした経験だと思う。

バラカン氏は定額配信サービスには肯定的で、ネット上の巨大な音楽ライブラリになると言い、CDをたくさん買ってきても置く場所に困ると指摘する(これは耳の痛い話)。ただ、「CD1枚持っていると、それにつまっている音楽に対する愛情は強くなる」と、物がないと価値が見出だせにくいことは認めている。

番組では後半、「音楽への“愛”をどう育む アーティストたちの挑戦」と題し、楽曲販売以外の方法の模索が紹介された。ある若手インディーズバンドはライブの際にチェキで撮影した写真を500円で販売し、一回で10万円の売り上げを得ている。ただ、これはアイドルの物販のアイディアを真似たもので、それなりの見た目の良さがないと難しい。一方、IT企業のピースオブケイクは、ネット上にアーティストとファンを結びつける試みをしており、くるりがデビュー前の楽曲を提供し1曲100円で販売している。また、アーティストを支援する方法として100円~500円または任意の値段を募金するという取り組みも行っている。

僕が注目したのは、音楽プロデューサーの牧村憲一氏のワンコイン(500円)コンサート。アーティストとファンの結びつきの機会を作る原点回帰の取り組みだが、心に残ったのが牧村氏の次の言葉だ。

無料で24時間垂れ流しで音楽が聴けますよというふうに、どちらかと言うとこの10年20年は走ってきたけども、そうじゃなくて、この時間は自分は音楽を聴きたいんだとか、一週間のこの日は音楽を聴くために取っておくんだというふうに、もっと意思ある音楽の聴き方というものも持ってもらいたい

バラカン氏も、リスナーは価値を認めればお金を払うと指摘する。アメリカでは、レコード会社との契約が成立しにくくなった中堅アーティストがクラウドファウンディングでアルバムを作る例もあり、ライブでも同じような取り組みは可能だとしている。一方で、これは苦言も込められているのだろうが、「35年間ラジオでDJをやっているが、自分が本当にいいと思った音楽を情熱を持って紹介すると、その情熱はリスナーに伝わる。メディアに携わる人がもっとたくさんいろんな音楽を聴いて、自分の感覚で本当にいいものを紹介すれば、捨てたものではない」と語っている。

あるIT通の方のブログを読んだが、新しい配信サービスのポイントはリスナー間の交流だと指摘していた。リスナーがプレイリストを公開し、それを聴くことで新しい音楽の出逢いがあると言うが、日本のSNSの普及の傾向から考えると、注目されるのは結局人気のアーティストとかモデルとか芸人とかのプレイリストで、それは「意思ある音楽の聴き方」なのだろうかと勘繰ってしまう。偏見なのかもしれないが、IT通の方の文章を読んでいても、コンピュータ好きなのはもちろんわかるが、音楽好きなのかどうかは伝わってこない。

結局のところ、音楽を作る人も、聴く人も、伝える人も、どれだけ愛があるかが重要なんだよなと妻に言うと、「雨トーーク!でケンコバがアダルトDVDを2000枚以上持っているけど、AV女優を支援する愛の気持ちだって力説してたよ。あなたの音楽に対する愛も同じね」と言われた。確かに音楽を聴くことで快楽を得ることはAV観賞と同じだが、AVは一人でこっそり楽しむもので音楽のように皆で楽しむことはできない、あ、ストリップがあるか、マグロ漁の漁師は漁船で皆でAV観賞を楽しむというのを本で読んだな、う~む…と相変わらず現実的な妻には勝てないのであった。