無料で24時間垂れ流しで音楽が聴けますよというふうに、どちらかと言うとこの10年20年は走ってきたけども、そうじゃなくて、この時間は自分は音楽を聴きたいんだとか、一週間のこの日は音楽を聴くために取っておくんだというふうに、もっと意思ある音楽の聴き方というものも持ってもらいたい
「おいしいダシ巻き玉子」というものはどうすれば作れるか知ってるかね? 『リアリティ』だよ!
ところで君たち、『おもしろいマンガ』というものはどうすれば書けるか知ってるかね? 『リアリティ』だよ! 『リアリティ』こそが作品に生命を吹き込むエネルギーであり、『リアリティ』こそがエンターテイメントなのさ。 『マンガ』とは想像や空想で書かれていると思われがちだが、実は違う! 自分の見た事や体験した事、感動した事を描いてこそおもしろくなるんだ!
そう言った後、岸辺露伴はクモを捕まえ、Gペンを刺し、クモを描くためにはどんな形をしているかだけでなく、どういうふうに内臓がつまっているか、腹をさかれて死ぬ前にどんなふうに苦しみもがくのかを知っていなければならないと力説する。さらには、「味もみておこう」と舐める。良いこと言ったかと思うと、台無しかと思えるような残酷かつ変態的な描写をするのが、荒木先生の真骨頂である。
前置きが長くなったが、松浦弥太郎氏がクックパッドの新メディア「くらしのきほん」を開設し、その思いを語ったインタビューを読み、この岸辺露伴のセリフでツッコミしたくなった。
●くらしのきほん
●松浦弥太郎[前編]クックパッドの高い技術を持った人たちに肩を並べられるコンテンツをぶつけてみたいと思った
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150629-00043939-gendaibiz-bus_all
●松浦弥太郎[後編]100年後も古びない「くらしのきほん」をアーカイブとして残していきたい
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150630-00043942-gendaibiz-bus_all
このインタビューによると「くらしのきほん」は暮らしを衣食住というジャンルで分けるのではなく、「あこがれる」「学ぶ」といった感情や行動で分けているのが特徴だという。例えば「ありがとう」というコーナーでは、「手紙を書くように」というタイトルでジャムの作り方を紹介しており、ジャムは瓶に詰めラベルを書いて人にあげることで、ありがとうの気持ちを伝えることができると説明している。暮らしをテーマにしているが、コンテンツの半分以上は料理に関するもので、その理由を「暮らしの中心には料理があって、暮らしを楽しくしようと思うと料理抜きには考えられない」としている。
ここまでは読んでてもっともらしいことを言っていると思ったのだが、驚いたのがこの言葉。
「僕も最近、毎日料理をしているんですよ。『暮らしの手帖』時代は横で見ているだけであまり実践していなかったんですが、今は毎日なにかしら料理をつくって、コンテンツを作っています」
つまり、クックパッドに来てから料理を始めたのである。こんなことを堂々と言う方に、「暮らしの基本としての料理」を教わりたいという気持ちになるだろうか。実際にダシ巻き玉子のページを読んだが、ソフトフォーカスの写真とですます調の文体できれいにまとめただけ。リアリティを全く感じられないのだ。
クックパッド・ユーザーの自分としては、ダシ巻き玉子の作り方を知りたいなら、つくれぽが多いレシピを探す。そもそもクックパッドはユーザー投稿のレシピ集であり、プロではなく、自分と同じ素人によるものだから、ここまで支持されているのだと思う。もちろん、今回の「くらしのきほん」は読み物で、クックパッドと差別化しているのはわかる。しかし、「100年後も古びない暮らしの基本を伝えたい」のに、クックパッド・ユーザーと変わらない、いやユーザーにはプロ級の方もいるので、それ以下の方が編集長というのは心許ない。せめて監修者を編集に入れるべきだ。
というわけで、僕は今日の夕飯をクックパッドを見ながら作ることにする。蒸し暑かったので、さっぱりと、豚こまと大葉と梅の肉団子、ナスとツナの生姜醤油和えにするつもりだ。もちろん、ご飯も炊くぞ。
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ライナーノーツはどこへ? 或いは、僕らがCDを買う理由
かつて、LPレコードを買うことは、命がけの跳躍と言ったらまあ言い過ぎだとしても、けっこう大きな冒険ではありました。買ったら、じっくり何度も聴いて、聴きながら、ライナーノーツを隅から隅まで読んだーというのはたぶん、僕を含む、人生すでに後半に入ったたいていの人間に、覚えのある体験ではないかと思います。音楽はダウンロードするもの、というのが標準になりつつある(のかどうかも、僕には実のところよくわからないのですが)今日、もちろんそれとは別の形で別の快楽が得られるようになっていることは間違いありません。が、ライナーノーツをじっくり読みながら音楽に聴き入ったときの、あの独特な感じを、いろんな世代の皆さんと共有できたら、それはそれで楽しいのではーそう思って、ご依頼申し上げる次第です。
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うれしい悲鳴をあげたことってありますか?
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『絶歌』に対する太田出版の中の人、著作物のある作家のつぶやき、または『絶歌』に反対する唯一の手段は。
どこの会社の話かと思ったら弊社だった。http://t.co/dz3ZgHunnI
— 北尾修一 (@kitaoshu1) 2015, 6月 10
太田出版から発行されているクイック・ジャパンの北尾修一編集長のつぶやきである。最初は「何を他人事のように言ってるのか」と思ったが、『絶歌』発刊がスクープ的に突然発表されたことを考えると、本当に知らなかったように思える。社員数20数名の中小出版社だが、おそらく『絶歌』の編集は岡聡社長と担当編集者だけで秘密裏に進められたのだろう。
担当編集者は同社取締役の落合美砂氏。同社発刊でミリオンセラーになった『完全自殺マニュアル』の編集を担当している。同社の出版物にもたびたび登場している東浩紀氏は以下のつぶやきをしている。
落合美砂さんは、ぼくたちの世界ではけっこう有名なベテラン編集者さんです。太田出版はむかし『批評空間』も出していた。それがいま「絶歌」か。
— 東浩紀 hiroki azuma (@hazuma) 2015, 6月 16
太田出版から著書がある手塚るみ子氏も複雑な気持ちをつぶやいている。
『絶歌』の報道で何年ぶりかに太田出版の岡さんを見る。その昔『オサムシに伝えて』の担当編集さん。どうやって父への思いを表現したらいいか、当時とてもお世話になりました。『絶歌』出版には色々思うところはあるけど「お父さんのこと書きませんか」と声かけて頂いたおかげで今の自分にもなれた。
— RumikoTezuka (@musicrobita) 2015, 6月 10
太田出版は近年漫画が人気であり、作家の松田洋子氏はその良さを忘れないでほしいと訴えている。
太田出版から後世に残すべき愛すべきすばらしい漫画がいっぱい出てますよ、とだけ訴えておきます。
http://t.co/Gxf1w6PRCb
— 松田洋子 (@matuda) 2015, 6月 16
僕自身、複雑な気持ちである。冒頭に書いた通り、友人が働いていたし、原稿も書いたことがあるし(原稿料の支払いが遅いことに腹を立てたが)、好きな漫画家のオノ・ナツメ氏は同社刊の『リストランテ・パラディーゾ』で知ったし、福田里香氏著『ゴロツキはいつも食卓を襲う フード理論とステレオタイプフード50』は愛読書だ(誤植が多いが)。
『絶歌』出版の6月11日から約1週間がたった6月17日の今日、太田出版が同書の出版を継続する声明を発表した。
http://www.ohtabooks.com/press/2015/06/17104800.html
太田出版に対する批判はしばらく続くだろう。社長と担当編集者は発刊前からそれなりの覚悟はしていただろうが(それでもここまでは考えてなかっただろう)、関わってない他の出版物の編集者たちは当分の間社会の厳しい意見に晒され、やりにくいこともあるだろう。著作物のある作家たちは複雑な気持ちを抱き、今後同社から著作物を出すことをためらうかもしれない。クイック・ジャパンや漫画の読者も何となく後ろめたい気持ちになり、買わなくなるかもしれない。企業は利益を追及するものではあるが、いくら物議を醸し出す本を定期的に刊行し、生き残ってきたとは言え、ここまでのリスクを犯してまで出版する覚悟が太田出版にあったのか、疑問に思う。ひょっとしたら、時の流れの早いこの情報化社会では1年後には忘れ去られ、ブックオフに山積みになることを見越した強かさなのかもしれない。
これだけ書いおいて逃げと思われるだろうが、僕は『絶歌』を読む気はない。教育関係者、児童心理学者、少年犯罪研究者など専門家が読む本だと思う。社会心理学者/カウンセラーの碓井真史氏が「願わくば、単なる興味本意ではなく、単なる参考書でもなく、彼を攻撃するためだけでもなく、同情するためだけでもなく、意味ある読み方ができる人々に、本書を必要とする人々に、この本が届きますように」と指摘しているように。
http://bylines.news.yahoo.co.jp/usuimafumi/20150617-00046725/
僕は、『絶歌』に1620円を払うのなら、その代わりに自分の好きな本を買いたい。もう少しお金を足してCDを買うのもいい。近所のカフェの大好きなベーコンチーズバーガーを食べられるし、ポテトも大盛りにできる。映画を観たり、美術館や博物館に行くのもいい。何よりこんなことに気をとらわれてないで、妻と他愛のないことでも話して笑っていたい。自分の心を自分の好きなもので豊かにする。それが僕が考える、『絶歌』に反対する唯一の手段は。
※アマゾンのリンクは『絶歌』とも太田出版とも何ら関係ない。
DKの甥っ子と音楽談義
メロウな音の桃源郷に行く方法は聴くしかない
柔らかな叙情と透明感あふれる優美なメロディー、瑞々しいオーシャン感覚とアトモスフェリックな麗しいサウンドスケープ。ジャジー&オーガニックなビートダウン・ハウスから、メロウ・ドリーミンなチルアウト・バレアリカ、ダビー&フローティンなメランコリック・アンビエントまで、波の音や鳥のさえずりもピースフルな心地よいヴァイブに満ちた極上の音の流れに身を委ねる82分17秒。
サバービアの橋本徹氏選曲の新しいコンピレーション「Good Mellows for Seaside Weekend 」の紹介文である。相変わらず何のこっちゃのカタカナ形容詞だらけだが、以前のブログにも書いたが、サバービアのコンピレーションCDは百聞は一聴にしかず、聴かないとわからない。で、聴いてみると、まぁ確かにそんな感じと思えてくる。
今回収録されている曲は大まかにいうとチルアウト/ハウスと呼ばれるジャンル。踊るというより、聴いてて心地よいゆったりとしたもの。海外だとジョー・クラウゼル、ホセ・パディーヤなどが代表的なアーティストである。厄介なのが、この辺の音は12インチ・レコードでしかリリースされないものが多く、しかもプレス数があまり多くないので、買い逃すと入手困難になる。昔のようにレコード屋に通わなくなったし、そもそもこの辺のレコードを売っていた渋谷のDMRもCISCOもない。なので、こういうコンピレーションは重宝する。
この「Good Mellows for Seaside Weekend」はミックスされておらず、一曲が完全収録されている。やはり橋本徹氏は曲そのものが好きな選曲家なのだと思う。クラブでDJプレイしているのを見たことがあるが、使えるメロディー、ビートをつなぎ、ミックスするのではなく、一曲一曲最初から最後までかけていた。フロアをアゲるのなら途切れなくミックスすることが必要になるが、今回のようなチルなコンピレーションの場合はゆったり聴かせる方がいいので、橋本徹氏のような選曲スタイルが合っていると思う。
ちなみにこのCD、橋本徹氏が関わるカフェ・アプレミディアプレミディ・セレソン / V.A.『Good Mellows For Seaside Weekend』で買うと、今なら氏選曲のCD-Rが3枚も付いてくるのでおすすめ。くどいようだが、僕は関係者ではない。
Good Mellows For Seaside Weekend
- アーティスト: V.A.(監修・選曲:橋本徹)
- 出版社/メーカー: Suburbia Records
- 発売日: 2015/04/22
- メディア: CD
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