カフェ・ヴィヴモン・ディモンシュの思い出

鎌倉のカフェ・ヴィヴモン・ディモンシュのマスター、堀内隆志さんの自伝ともいえる「鎌倉のカフェで君を笑顔にするのが僕の仕事」を読んだ。日本史だけが得意科目の歴男で、大学時代はテニスサークルに所属していた“ミーハー大学生”(本人談)であった堀内さんが、歴史ある町・鎌倉でフランス語の店名のカフェをなぜ始めたのかから、グッズを販売する理由やコーヒーと音楽の関係、20年以上お店を続けてきて感じたことが、堀内さんのお話し方と同じように丁寧で、穏やかな文体で記されている(実は趣味がプロレス観戦の熱い魂を持った方なのだが)。

 

僕が初めてディモンシュに行ったのは1995年ぐらいだと思う。クラブを借りてDJをやっていた頃にフライヤーのデザイナーをしてくれていた娘が「鎌倉に好きそうなカフェがあるよ」と教えてくれ、遠足気分で行ってみようということになった。鎌倉に行ったのは小学生の遠足以来だったので、普通電車で行けばいいところを、わざわざロマンスカーの展望席をとったのを覚えている。

 

コーヒーとミルクが別々に出てきて自分で好みの濃さにすることができるカフェオレ、とろとろの半熟のオムライスの美味しさに驚いたが、「勝手にしやがれ」のポスターが貼られたお店の内装、オリジナルの角砂糖の包装紙やマッチ、喫茶と音楽をテーマにしたフリーペーパー、かかっている音楽など、細かいところにこだわりを感じた。いいカフェだなと思い、以来、一か月に一回は通うようになった。大学時代の後輩がディモンシュでアルバイトを始めたことをきっかけに堀内さんとお話しする機会があり、それ以降、僕は図々しくも行くたびに自分の選曲テープを堀内さんに渡していた。

 

いちばん覚えているのは働いていた出版社を辞め、平日に行った時のこと。2月で、鎌倉の観光シーズンから外れていたこともあり、お店は落ち着いた雰囲気で、地元住民がくつろいでいた。ディモンシュは小町通りから少し入ったところにあり、向かいにはパチンコ屋がある。以前、職場の同僚の男性が鎌倉に住んでいて、そのパチンコ屋の帰りにコーヒーが飲みたくなってディモンシュに入り、「おしゃれな店で短パン・Tシャツ・ビーサンの俺は恥ずかしくなっちゃったけど、コーヒー旨かったよ」と話していたのを思い出した。僕が行った時も堀内さんはいつもよりもリラックスした感じで、僕が座っていた席まで来て、しばし雑談した。フリーペーパーなどで堀内さんがプロレス好きだったことは知っていたので、「実は僕もプロレス好きなんですよ」と話し、ブラジル音楽が静かに流れる中、堀内さんとプロレス談義で盛り上がり、アルバイトをしていた大学時代の後輩に呆れられた覚えがある。

 

その後、アルバイトをしていた後輩がディモンシュを辞めて独立して自分でカフェを開いたり、一緒にディモンシュに通っていた彼女と別れたり、仕事がうまくいかなくなったりなど、いろいろあり、ディモンシュからは足が遠のいてしまった。ツイッターで今年4月26日にディモンシュが21周年を迎えたことを知り、堀内さんに「ディモンシュ21歳の誕生日おめでとうございます」とリツイートした。堀内さんからは、「ありがとうございます。ぼくがディモンシュを始めた26歳までは頑張りたいです」とリプライがあった。先日、妻と江の島に行ったときに帰りに寄ろうとしたが、閉店時間で入れなかったので、また機会を改めて行きたい。

 

実はこの本を読んで一番意外だったのが、開店当時、堀内さんはコーヒーの味がよくわかっていなく、ブラックコーヒーを飲んだことさえなかったという。もちろん現在では自家焙煎されるプロだが、「人は誰でも表現者になれる。そして暮らしの中から自分なりの表現をしていくことで、毎日の幸せを感じることできる」という精神を、「誰もが自由に語り合うフランスのカフェのような場をつくることが自分にもできる表現方法」と、ディモンシュを開店した堀内さんらしいエピソードだと思う。

 

かくいう僕は、いまだにコーヒーはミルクと砂糖を入れないと飲めない、Coffee-milk Crazyなのだが。

 

鎌倉のカフェで君を笑顔にするのが僕の仕事

鎌倉のカフェで君を笑顔にするのが僕の仕事