緊急事態宣言から5年後の4月7日にあなたなら何の曲を捧げますか?

5月26日。緊急事態宣言が全面解除されたが、僕は偶然にも休業日。テレビのニュースやSNSに流れてくる情報程度しか社会の状況はわからない。地元の街は営業再開を告知する飲食店がちらほら見られ、近所の神宮も参拝できるようになったのでお参りしてきたが、もともと静かな住宅街だし、休業日を4日間命じられた以外はいつも通り出社していたので、正直なところこの2ヶ月弱の間で生活が大きく変わったというわけでもない。自宅待機になった夜型の妻が起きる時間がますます遅くなり、一人で音楽を聴いたり、本を読む時間はかえって増えた(放置気味だったブログを更新し始めたのもこの理由である)。

 

ただ、音楽をめぐる状況は大きく変わった。大小問わずライブは中止、延期に追い込まれ、行く予定だった折坂悠太は中止、小沢健二は来年に延期になった。クラブも自粛休業を強いられ、昔よく遊びに行き回したこともあった三宿のWebの閉店のニュースはショックだった。

 

自分の音楽の聴き方がサブスク中心になったとはいえ、多くのレコード/CDショップが自粛休業したことも辛かった。とりわけ近年のアナログブームのきっかけともなった(賛否両論はあるが)レコードストアデイが2度の延期を経て8月、9月、10月の「RSD Drops」の分散開催になり、例年は制約されていた限定盤のオンライン販売も開催日に解禁という苦渋の決断をしたのはやるせなかった。皮肉にも僕が働く中古オンラインショップは買取・販売ともにそれなりに繁盛している。

 

ミュージック・マガジン6月号の特集「コロナ・ショックと音楽」の高橋健太郎さんの原稿は情報量が多いのに示唆に富んだ内容で頭の整理になった。

 

アフター・コロナの世界で音楽はどうなっていくのか、ビジネスや方法論のことは見通せないし、悲観や楽観に振れた予言に意味はないとも思っている。このウィルス、この感染症については、まだ判らないことが多過ぎるからだ。ただ、これから作られる音楽作品においては、COVID-19が引き起こしたことが大きなテーマとして扱われるには違いない。全人類的な経験がミュージシャンの頭上にも降り注いだのだから。

 

この先、何ヵ月かのうちに聞こえてくる音楽が、どんなメッセージを孕んでいるかには注意を払いたい。進むべき“次”を指し示すような、人類の叡智がそこに聴き取れることを僕は願っている。

 

このブログのタイトルは菊地成孔さんの2016年3月11日のラジオ番組から拝借した。

 

菊地成孔 震災から5年後の3月11日に『三月の水』を捧げる https://miyearnzzlabo.com/archives/36646

 

緊急事態宣言が出されてから久しぶりに更新したブログのタイトルで僕はフィッシュマンズの「新しい人」を引用した。コロナ禍においてはこの曲は音楽に対する僕の気持ちをいちばん表していると思った。いや、ビフォア・コロナもアフター・コロナにおいても。

 

音楽はなんのために

鳴りひびきゃいいの

こんなにも静かな世界では

こころふるわす人たちに

手紙を待つあの人に届けばいいのにね

 

新しい人/フィッシュマンズ