妻:「なんで今さらモリッシー見に行きたいの?」
私:「モリッシーも64歳だし、私も五十路だし、もう次はないかもしれないじゃない?だから一応見とこうかなと思って」
記録的な酷暑が続く8月、モリッシーの来日公演が発表された。たった一日でしかもスタンディング。チケット代も12500円と安くはない。何より私は32年前の初来日公演を見ているのだが正直さほどいい印象はなかったのだ。
●THAT’S MISSERABLE ENTERTAINMENT!~1991年のモリッシー来日公演再録
「プレミアチケット必至!」の煽りがあったもののチケットはあっさり取れた。だが11月になると予定されていたアジアの4公演はことごとくキャンセル、「豊洲もキャンセルだろうから浮いたチケット代で何か美味しいものでも食べに行こうか」と妻と話していた。しかしその日はやってきた。当日のドタキャンは勘弁と思いながらも豊洲に向かう。ツイッター(現X)で早くも物販に並ぶ人が「リハでモリッシーの声が聞こえる!」と投稿していたがそれでも現実味はなかった。
豊洲PITに着き中に入ると手厚いご歓迎に苦笑する。
前に行く体力も気力もないので最後尾に陣取る。かろうじてステージのスクリーンが見えるがこの時点でも現実味がない。
「間もなく開演です」のアナウンスがあり会場に大歓声が沸くが始まったのはモリッシー・セレクション・ミュージックビデオ上映会。シンニード・オコナーの「Nothing Compares 2 U」には涙腺が崩壊しそうになったが、ダラダラとミュージックビデオが30分以上垂れ流され続け「機嫌損ねてキャンセルか」と覚悟していたが、遂に客電が落ちた。
最後尾なので姿は見えないが、「コンニチワー!!ユーアーザワンフォーミー…トーキョー!!」とモリッシーのMCが聞こえる。あれ?上機嫌じゃん、初来日の時は日本語のMCなんてあったっけ?とあまりにも待たされたので正直冷めていたが、「We Hate It When Our Friends Become Successful」を歌い出し、モリッシーの声を聴いてはっきり言って驚愕した。力強い。しかも美しい。とても64歳の男性の歌声とは思えない。そしてようやくわかった。私はモリッシーの歌声が好きなのだ。歌声でこれだけ人を魅了できる唯一無二の歌手。それが私がモリッシーが好きな理由なのだ。極めて単純な理由だが単純だからこそ動かしようのない事実であり、天賦の才としか言いようがない。
モリッシーの歌声は最後まで衰えることがなかった。終盤の「Please, Please, Please, Let Me Get what I Want」と「Everyday Is Like Sunday」は胸打たれる絶唱だった。アンコールの激しいアップテンポナンバーの「Sweet and Tender Hooligan」すら美しく聴こえた。
「人が何と言おうと、とにかく僕は勝った。戦いはすでに終わってしまったんだよ」。ーかつてモリッシーが語った言葉の意味がわかったような気がした一夜だった。きっと50 YEARS OF MORRISSEYもあるだろう。その日に向けチョコザップにでも行くか。